第3 犯人性
(1)犯人性の目次
code:犯人性の目次
第1 犯人性
本件は,平成○○年○月○日午前○時ころ,□□において,犯人が,Vに対して,……した事件である。【検討対象事件の特定】
1 犯人は……であるところ,Aは……である事実【間接事実を具体的に記載】
この事実は,Aと本件犯行の……との結びつきを示すものであり,本件と無関係にこの結びつきが生じた可能性は考えにくいことから,本件犯行とAを強く結びつけるものであるので,Aが本件の犯人であることを,強く推認させるものである。【意味づけ】
(認定根拠)【認定根拠】
(1)犯人側の事情について
ア ……について,△△【証拠の摘示】。
イ ……について,B供述(Bは,……なので,信用できる。【信用性の判断】)
……
(2)A側の事情について
ア ……について,▽▽。
……
5 Cの供述【直接証拠の場合】
Cは,……の状況で犯人を目撃し,犯人の顔を見た旨供述し,その上で,Aを犯人であると明確に述べている。したがって,Cの供述は,Aが犯人であると直接認定できる重要な証拠である。【直接証拠であることの説明】
(信用性)【直接証拠は,(信用性)を判断する。(認定根拠)ではない。】
(1)犯人目撃について
ア 知覚記憶の条件
イ その他のメルクマール
(2)犯人識別について
ア 選別手続
イ その他のメルクマール
6 Aの供述
Aは,犯人性を否定し,犯行当時は,……で……していたと述べる。しかし,以下のとおり,Aの犯人性に関する否認供述は,到底信用できず,Aを犯人と認定する妨げとはならない。【Aの主張の要約と信用できないことの指摘】
(信用性)
(1)客観的供述との不一致
(2)供述の変遷
……
(5)したがって,Aの犯人性を否定する供述は,到底信用できない。
(2)犯人性の型についての注意点
ア 記載順序
厳守のこと! 書き落としをしない。
code:順序
間接事実
→直接証拠
(→共犯者供述)
→A供述
→まとめ
間接事実を先に書く。直接証拠があっても,間接事実から。 イ 検討対象事件の特定
間接事実の検討に先立ち,検討対象事件を特定する。5W1Hを書けばよい。
注意点として,ここでは,刑法的な評価を入れた表現ではいけない。
code:例
NG …… 殺した 窃取した 詐取した
OK …… 死亡させた 持ち去った 入手した
2 間接事実
(1)考え方
ア 基本の考え方
基本的には,刑裁と同じ。
犯人と被疑者をつなげばよい。
code:間接事実の類型 『検察終局処分起案の考え方』p.4,5より
1 事件に関係するもの(犯行供用物件,被害金品等),現場等における遺留物その他犯人に関係するもの(指掌紋,足跡,血痕,体液等)と
被告人との結びつきを示す事実
2 犯人の特徴(容姿,体格,年齢,服装,所持品その他の特徴)が
犯行当日の被告人の特徴に合致ないし酷似する事実
※どこが合致するのか,どのように酷似するのか,それはどれくらい珍しい合致・酷似なのか,等を論じること。
3 被告人に事件の動機・目的となり得る事情があった事実
※犯人・事件側の事情として,本件が何らかの動機・目的を持つ者の犯行であることも認定する必要がある。
4 被告人が事件を実現することが可能であった事実(犯行遂行能力,技能,土地鑑,金品等の管理の立場,被害者と被告人との結びつき等)
5 被告人に事件を実現する機会があった事実(被疑者が犯行時に犯行現場にいた事実,犯行前・後に犯行現場又はその付近にいた事実。いわゆる「前足・後足」)
6 犯行前の被告人の事件に関する言動(犯行準備,犯行計画,犯行隠蔽のための布石,逃亡準備,犯行の事前打ち明け等)
7 犯行後の被告人の事件に関する行動(犯行による利益の享受(犯行以外の原資が不明な現金所持,借金返済等を含む。),犯行隠蔽,アリバイ工作,逃亡,犯行打ち明け等)
イ 検察起案の間接事実の特徴(私見)
(ア)間接事実の完成形が重要
検察では,どのような間接事実を認定したか(=どのような間接事実を記載したか)が重要。
この点,刑裁が,間接事実をどのように認定したか,に大きなポイントがあることと異なる。したがって,検察では,間接事実を作るところに,相当程度,時間と神経を使いましょう。
(イ)間接事実の認定の過程は,それほど厳密じゃなくていい
刑裁に比べれば,ここにはそんなに比重がないと思われる。
(ウ)間接証拠から直接認定・再間接事実からの推認を区別
ただし,この二つは区別する必要がある。
(逆に言えば,この二つだけ区別できていれば,それで問題ない。)
(エ)認定根拠となる証拠は漏らさず挙げる
最小限ではだめ。認定根拠となるものは,全部あげるつもりで。
(オ)「可能性がある」は使わない。確実に認定できる事実に一段下げる。
ウ ポイント
(ア)それぞれの間接事実の型を守る
①間接事実の記載→②意味づけ→③認定根拠
それぞれにどのようなことが要求されているかを理解する。
(イ)間接事実の並べ方を守る
間接事実の記載順序は,証拠が固い順。(強い順ではないが,あまりに弱いものを最初に書くのも微妙。まあ,そこらへんは,バランス感覚で。)
つまり,客観的な証拠から認定できるものから記載する。
終局処分段階での判断を示すものであることから。
(2)型
code:型
1 犯人は……であるところ,Aは……である事実。
【意味づけ】
(認定根拠)
(1)犯人側の事情
……
(2)被告人側の事情
……
まず,間接事実の完成形を書く。
次に,改行の上,その間接事実の意味づけを書く。
また改行して,「(認定根拠)」と書いた上,改行して,犯人側と被告人側に分けて,認定根拠を記載する。
(3)注意点
ア 間接事実の完成形の記載
code:記載例
「犯人は……であるところ,
被告には……である事実」
(ア)犯人側と被告人側
必ず,双方を入れる。
(イ)具体的事実を記載する
具体的に認定する。5W1Hを盛り込もうとすればよい。
特殊な事実をどこまで具体的に記載するかは,①認定できるか,②その事実を認定することによって推認力が強まるか,の視点から考える。
イ 間接事実の意味づけ
間接事実の類型のどれに当てはまるか,を記載する程度でよい。
推認力は,「強い」「相当程度強い」「一定程度の推認力」「矛盾しない」「弱い」くらいだろうと思われる。(かなり適当。)
ウ 間接事実の認定根拠
(ア)禁止事項
絶対に,A供述を使わない。
(イ)全体について認定する
間接事実の完成形の全体について,認定根拠を記載する。
(ウ)認定の仕方のコツ
a 犯人側と被告人側を分けて認定する。
b 間接証拠から直接認定する場合と,再間接事実から推認して認定する場合を区別する。
c 認定根拠となる証拠は漏らさずあげる。
(エ)検察起案における認定のポイント
再間接事実からの推認であっても,認定の構造を厳密に書こうとしなくてよい。間接証拠からの直接認定と,再間接事実からの推認を区別する程度でよい。
その代わり,認定根拠となる証拠は,必要最小限に留まらず,すべて挙げるようにする。
検察起案では,認定根拠のところは,正しく認定根拠となる証拠を挙げているか,にポイントがあり,推認過程をわかりやすく説明しているか,にはそれほど大きなポイントはない。たくさん書いても,あんまり点にならないので,端的に根拠となる証拠,根拠となる再間接事実を挙げるようにする。(箇条書きっぽい感じ。)
(オ)供述の信用性判断
括弧書きで,ポイントのみ箇条書き。
信用性メルクマールに当てはまる具体的事実を端的に指摘するだけでよい。できるだけ,客観的事実との符合を挙げる。
3 直接証拠
(1)Mメソッド
直接証拠か間接事実かを見分ける方法として,Mメソッドがある。
(名称は,23組のMくん提唱によるため。)
code:Mメソッド
直接証拠であるためには,次の二つの条件を満たしていなければならない。
ⅰ 犯行・犯人を目撃していなければならない。
ⅱ 犯人は被疑者である,と識別していなければならない。
両方そろって,はじめて直接証拠になる。
どちらかしかなければ,間接事実に落ちる。
(2)型
code:型
5 Cの供述
Cは,……の状況で犯人を目撃し,犯人の顔を見た旨供述し,その上で,Aを犯人であると明確に述べている。したがって,Cの供述は,Aが犯人であると直接認定できる重要な証拠である。
(信用性)
(1)犯人目撃について
ア 知覚記憶の条件
イ その他のメルクマール
(2)犯人識別について
ア 選別手続
イ その他のメルクマール
まず,直接証拠たる証拠を記載する。W供述,とかになる。
次に,改行して,その証拠が直接証拠となる理由を書く。供述の要約,犯人目撃,犯人識別,直接証拠であることの指摘。
次に,改行して,「(信用性)」と記載の上,信用性をチェック。犯人目撃供述部分と,犯人識別供述部分に分けて検討する。
(3)注意点
ア タイトル
タイトルとして記載するのは,「B供述」などであって,内容ではない。供述内容を書いてはいけない。(直接証拠は,供述そのものであって,供述内容ではないから。)
イ 直接証拠であることの説明
供述の要約,犯人を目撃したこと,Aを犯人と識別したこと。
まず供述を要約して,次にそれが直接証拠である理由を書き,最後にそれが直接証拠であるという結論を書く。
直接証拠である理由は,①犯人を目撃している,②Aを犯人だと識別している,の双方を書く。
code:記載例
a 供述の要約
b 直接証拠である理由
(a)犯人を目撃している
(b)Aを犯人だと識別している
c 直接証拠であること
ウ 信用性
信用性は,犯人目撃供述と,犯人識別供述に分けて書く。
それぞれ特有のメルクマールがあるので,それを書く。
code:メルクマール
ⅰ 犯人目撃供述の信用性
ⅱ 犯人識別の信用性
4 共犯者供述,A供述
(1)注意点
ア 必ず記載する。
イ 順序を間違えない
(2)共犯者供述
信用性を検討する。
共犯者供述の信用性のメルクマールを検討する。
(3)A供述
信用性を検討する。
既に挙げた間接事実の推認力を判断する上で重要な事項について,信用性を検討する。
信用できないとするなら,客観的事実との矛盾を指摘すべき。
5 犯人性のまとめ
間接事実,直接証拠を総合すると,被告人の弁解にもかかわらず,犯人性が認められることを書く。
6 犯人性起案の注意点
目次を外さないこと
たとえば,共犯事件の犯人性の検討を,A1,A2いっぺんにやってしまえば,それだけで,死亡する。
code:□NG集
□ⅰ 共犯事件の犯人性の検討を,A1,A2いっぺんにやってしまう。
□ⅱ 被疑者供述の論述場所を間違える。
□ⅲ 間接事実と直接証拠の論述順序を間違える。
□ⅳ 共犯者供述の論述場所を間違える。